痴呆高齢者 「見守りケア」未整備

介護保険制度がスタートしてまもなく二年。在宅サービスの利用が急速に拡大するなど、新しい仕組みが市民生活に根付きつつある一方で、問題点も明確になってきた。「走りながら考える」という方針で始まった未完成な制度を、どう改善すればいいのか。
 「常に目が離せないからこそ見守りサービスが必要なのに・・・」。さいたま市の自宅マンションに痴ほうの実母(83)を引き取って介護する主婦(44)は、こうつぶやく。
 要介護3の母親は、付近を歩き回る徘徊が激しく、警察に保護されることもしばしばだ。夕方になると、故郷を思い「そろそろ帰ります」と外出する。一緒に歩くのが日課だが、途中で帰ろうとすると「連れて行かれる!」と騒がれ、精神的に参ることも多い。こうした経験で介護保険を使って自分の時間を持ちたいと考えているが、滞在時間が短い巡回型の訪問介護では役に立たず、「施設でまとまった時間預かってくれる通所介護と短期入所しか使えない」。予約でいっぱいで利用できないときや急用ができたときは、一日八時間一万円で家政婦に世話を頼むしかない。
 痴ほうには、深夜大声で騒いだ入り、食事したことを忘れてしまったりと言う症状があり、介護する家族の負担感は大きい。にもかかわらず、痴ほう高齢者の在宅サービスの利用状況を見ると、要介護2−3では訪問介護サービスがほとんど使われない。
 その理由について、「呆け老人をかかえる家族の会」埼玉県支部の宮下房江世話人は、「症状が頻繁に現れる痴ほうの初期には付き添って様子を見る『見守り』が欠かせないが、今の費用体系でサービスを頼むと給付限度額をすぐ超えてしまう。ヘルパーは知識も技術も乏しく、不適切なケアで本人の症状を悪化させることもある」と言う。
 これに対し、厚生労働省は、来年度から痴ほう高齢者自宅を訪問する「見守りボランティア」を育成、介護保険以外のサービスとして普及させていく考えだ。しかし痴ほう介護に詳しいライフエイドネクサスデザイン社の田村静子代表は、「ボランティア任せは無責任。本人や家族の支援になるサービスの手法を確立して、普及させることが、緊急の課題だ」と言う。また、池田省三・龍谷大学教授は、「痴ほう向け見守り専門ヘルパーの養成が必要。当面は給付限度額を上乗せすべきだ」と提案する。
 痴ほうへの対応では、「要介護認定」も問題の一つ。症状が強くても体が元気な場合は要介護度が低くなりがちで、厚生労働省で見直しが行われている。「痴ほう高齢者とその家族が置き去りにされている」(池田教授)と指摘する声は大きい。
読売新聞 平成14年3月19日(火曜日) 朝刊