少子化対策待ったなし!

女性が渉外に産む子供の数を示す合計特殊出生率の将来推計の低下が著しい。深刻な少子化は社会の高齢化や人口減少を加速させるだけに、厚生労働省は今週にも新たな有識者会議を発足させ、少子化対策の強化に乗り出す。これまでの対策が効果を上げてこなかった原因の検証や、他の先進国の取り組みを研究することが、今まで以上に必要となりそうだ。


■低い関心■

国立社会保障・人口問題研究所が1月末に発表した2050年の合計特殊出生率の推移は、政府関係者に衝撃を広げた。五年前の1.61という予測を1.39に大幅下方修正していたためだ。厚生労働省幹部の一人は「人口減少が早まる。世の中も少子化の深刻さに目を向けるべきだ」と指摘し、「高齢化」に比べて社会の関心が薄い「少子化」に真剣に取り組む必要性を強調する。出生率の低下は1970年代から続く。74年に2.05だった出生率は2000年には1.36に落ちており、日本の人口の推移に必要とされる「2.07」との差は開く一方。人口問題研究所は、2000年の出生率と寿命が今後も一定と仮定すると百年後の人口は4,253万人で、現在の約三分の一になると試算。人口の急減が、年金をはじめとした社会全体に大きな変化をもたらすのは確実だ。少子化はこれまで「光の当たらないテーマ」(厚生労働省幹部)だった。戦前戦中に富国強兵の一環で「産めよ増やせよ」と多産を奨励したことへの反省から、戦後は人口政策がタブーだったのに加え、「女性が働くと出生率が下がるから積極的な子育て支援は行わない、と考えてきた」(同)ためだ。94年には、初の子育て支援計画「エンゼルプラン」が策定されたが、同時に決まった高齢者対策の「新ゴールド・プラン」(総事業費9兆円)に比べ、予算が少なく事業規模も不明確なままのスタートだった。そのご首相直属の「少子化への対応を考える有識者会議」が98年に提言をまとめ、翌年に新エンゼルプランが策定されたが、年間78兆円の社会保障給付費のうち、高齢者関係には66%配布されて世界の最高水準なのに、子供関係はわずか3%。他の先進国は10%前後の予算を振り向けており、日本の子供関係の予算は極めて低水準だ。


■父親も子育てを■

政府はこれまで、出生率の低下は未婚化・晩婚化によるもので、「晩婚化の進行が一段落すれば出生率も回復に転じる」と分析していた。しかし、今回の人口問題研究所の調査では、過去五年に「夫婦が産む子供の数も減っている」ことがわかり、「結婚さえすれば子供は生まれる」という従来の楽観論は崩れた。調査にあたった同研究所の高橋重郷部長は、結婚しても産まない傾向が顕著な60年生まれ以降の世代について、@女性の四年制大学進学率が上昇Aバブル経済初期で男女雇用機会均等法施行の頃に就職Bバブル崩壊期に結婚−などの特徴をあげ、「女性が社会的地位を高めた世代で、それまでの専業主婦世代との違いがある」と分析。慶応大学の研究グループが最近行った調査によると、出産・育児期の女性のニーズが最も高いのは「配偶者の協力」で、次いで「職場や上司の理解」だった。同調査に加わり、首相直属の有識者会議で座長を務めた岩男寿美子・武蔵工業大教授は、「国際的にも目立つ父親の育児参加の低さを変える必要がある。経済効率だけを追求してきた価値観を見直し、社会全体で子育てを考えないといけない」と警鐘を鳴らす。


■他の先進国■

少子化を悩むのは他の先進国でも同様だ。将来的に人口が増えも減りもしない状態を維持するために必要な合計特殊出生率の水準(=人口置換水準。先進国では2.1前後)を上回っている国はほとんどない。しかし、先進国でも1.8前後の「低出生率国」と1.3前後の「超低出生率国」に分かれる。前者の代表は北欧やフランス、イギリス、アメリカなど、ノルウェーはじめ北欧諸国では手厚い家族政策が行われ、それが仕事と子育ての両立や、出生率向上に役立っている。フランスでは三人目以降の子育てに対し児童手当や親の年金を厚くして、高めの出生率を維持している。後者の代表は日本、ドイツ、イタリアなど。いずれも出産奨励的な政策に強いアレルギーを持つほか、女性の労働力率や婚外子の割合が低い。子供は三歳まで母親が家庭で見るものといわれるドイツのように、伝統的な家族観が強いとされる。ただし、ドイツでも最近の年金改正で、子育て期間をより親の年金額の評価に結びつける子育て支援強化策を打ち出している。

2002年3月4日(月曜日) 読売新聞 朝刊 (3)